今から20年以上前。
スロット業界は狂気に満ち溢れていた。
人々の欲望を掻き立てる、
悪魔みたいな機種が次々と生まれ
脳汁ドバドバ。
車の中で絶叫しながら帰ったことなんて、
一度や二度じゃない。
【獣王】というAT機種が出てから、
スロット業界はどんどんおかしくなっていった。
そして行くところまで行った先に、
ミリオンゴッドやコンチ4Xが問題になり、
警察沙汰や検定取り消しなんて話も出てきた。
そんな時代だった。
僕はその頃、
ほとんど打ち方も分からないAタイプの機種を打っていた。
忘れもしない。
その名も【ドンちゃん2】
ホールを見て回っていると、
1000ゲーム以上ハマっているドン2を発見。
しかもその台には、
高設定示唆の札が刺さっていた。
もちろんガセの可能性もある。
でも当時のバカな僕は、
「高設定っぽくて1000ハマり?
これ、逆に吹くんじゃね?」
みたいな、意味不明な理論で座ってしまった。
高設定確定でもないのに。
1500ゲームを超えた頃、
「ん?まだ来ないのか…」とイライラし始める。
1800を超えた頃には、
完全に頭に血が上っていた。
ヤケになった僕は、
ボタンをグーで強く押したり、
下パネルを軽く叩いたりしていた。
いわゆる台パンである。
今なら間違いなくSNSで叩かれていたと思う。
当時は、
「パチンコ台を殴ってガラスを割った」
なんて噂話も普通に飛び交っていた時代だった。
本当かどうか分からないけど、
スタッフルームの裏に連れて行かれて、
怖いお兄さんがいたとかいないとか。
そんな空気の時代。
ついに2000ゲームを超えた時、
僕は本気で、
「これ遠隔か…?」
なんて思い始めていた。
今思えば、ただ自分の引きが悪いだけなんだけど
当時のスロッターは何かあると
すぐ遠隔だと言っていた。
負けるたびに、
店のせいにしていたのだ。
すると突然、
向かいの台に座っていた
工事現場風のおじさんが立ち上がり、
「あんちゃん、まぁこれでも飲んで
落ち着けや。」
そう言って、
缶コーヒーを1本くれた。
ブルーマウンテンだったかな。
「まぁ、こういう日もあるよ。」
見ず知らずの僕に、
ただそれだけ言ってくれた。
僕、冬でもホットコーヒー飲まない人なんだけど
あの日の缶コーヒーだけは
やけに温かかった。
あのおじさんのコーヒー、
妙に沁みたんだよな。
その後、
BIGは引いたものの全部飲まれて負け。
たぶん3〜4万円くらいやられた。
でも、
あのおじさんの言葉に少し救われた。
人の優しさを感じた日だった。
顔も体格も覚えていない。
でも、
缶コーヒーを渡してくれたことだけは、
今でも鮮明に覚えている。
イライラすることが多い世の中だけど、
少しでも人に優しくできる人間になりたい。
あの日のおじさんみたいに。
……と、
本当はいい話で終わりたかったのだが、
今日あったことをあえて書く。
今日、
路肩に停まっていた車が、
縁石に寄せればいいものを、
細い道を塞ぐような位置に停まっていた。
何度も切り返して、
ようやく通れたのだが、
その瞬間めちゃくちゃイラついた。
「どこに停めてんだ、この車ぁ!!!」
車の中で1人叫んでいた。
どうやら僕はまだ、
あの日のおじさんにはなれていない。


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